東日本大震災で津波にさらわれて行方不明になった知人が、ドイツのゲッティンゲンに現れる。そこで流れる淡々とした時間──そう、時間である。同じ場所にいても、過去を生きた人やそこにあったものと、今生きていてここにあるものは、重…
小説を中心に、時々ドキュメントやエッセイも読みます。
東日本大震災で津波にさらわれて行方不明になった知人が、ドイツのゲッティンゲンに現れる。そこで流れる淡々とした時間──そう、時間である。同じ場所にいても、過去を生きた人やそこにあったものと、今生きていてここにあるものは、重…
平安の世に生きた在原業平という人物が見事に浮かび上がる作品。伊勢物語は平安時代につくられた貴族の男性を主人公とした歌物語集だが、この恋多き主人公は業平をモデルとしているとも言われている。小説伊勢物語の中で、業平や女性たち…
過去に付き合っていた彼が、不可解な遺言状の残して死んだ。自分のことを殺した犯人に巨額の財産を譲るというというのである。弁護士である主人公は、その財産の一部を得るため、犯人として名乗りを上げたクライアントの代理人として関係…
沖縄で暮らしていると聞いたら、私は何も考えず、それは素敵なところに住んでいるんですねと言うだろう。その笑顔の裏側に、深い悲しみや、やり場のない怒り、あるいは諦めがあることに気づかないまま。 本作は、著者が沖縄で暮らしてい…
記憶を失くした少女がたどり着いたのは小さな島だった。そこで話される複数の言葉は、理解できる言葉と、理解できない言葉があったが、ノロと呼ばれる歴史と責任を背負う女性のみが使うことを許される言葉を、彼女は理解することができる…
事故で障碍者となった妻と、その介護をして暮らす夫。それから、CP(脳性麻痺)の男性と、ネットで知り合った女性のこと。彼らから見えるのは、障碍者が同情される者ではなく、同じ一人の人間として、共に社会に生きる人間として見たと…
ロースクルールの生徒たちによる無辜ゲームと呼ばれる模擬法廷。審判者、告訴者、犯人、証人、そして傍聴人、それぞれが校内で発生した事件をもとに審判を仰ぐのだが、何気ない遊びにさえ見えたこのゲームは、やがて実際の法廷と繋がって…
物語の中に物語が描かれる王道ミステリーだった。閉鎖された病院の屋上から落下したのは自殺なのか、事故なのか。そして、そこに至る過程で何があったのか。 この作品の面白さはまず構成の素晴らしさにある。主人公の前に謎が示され、そ…
麻薬密売、臓器売買など、裏社会のキャピタリズムが淡々としたビジネスとして描かれていく様は、ふと気づくと企業小説を読んでいるかのような錯覚に陥る。そして、裏ビジネスに携わる人々のメンタリティも生々しく描かれ、気づけば共感し…
先日、「始まりの木」(夏川草介著)を読み、やはり「遠野物語」を読まなくてはと積読本から抜き出してじっくりと読んだ。少しずつ消化しながら読んだつもりだが、理解しきれていないところも多々ある。しかし、日本という国、そして日本…