なんという美しさだろうか。8×8の升の上、あるいは下には、逃れようのない耽美な切なさが、無限の宇宙のように広がっていた。 リトル・アヒョーキンと呼ばれるチェスプレイヤーは、ただ強いだけで伝説となったわけではなかった。彼の…
小説を中心に、時々ドキュメントやエッセイも読みます。
なんという美しさだろうか。8×8の升の上、あるいは下には、逃れようのない耽美な切なさが、無限の宇宙のように広がっていた。 リトル・アヒョーキンと呼ばれるチェスプレイヤーは、ただ強いだけで伝説となったわけではなかった。彼の…
中国に密航して三十年後、日本に帰ってきた男は、失われた時間を取り戻すかのように日々を過ごす。かつての友、そして家族はどうしているのか、家はどうなったのか、そして日本はどのように変わり、世界はどのように変わったのか。 彼は…
長崎の五島列島にある中学校の生徒たちの、合唱コンクールへ向けた青春のひと時を描いた作品は、読んでいる間だけ自分の年齢を忘れてその頃に戻ったような気持ちになれる清涼感溢れる一冊だった。 産休に入る音楽教師の代理で学校に来た…
シューマンの文学的音楽、そしてその生き方が、現代を生きる若者を導く。その先にあるものは光なのか闇なのか。 里橋優の元に、鹿内堅一郎から驚くべき手紙が届いた。かつて天才と呼ばれたピアニスト・永嶺修人が、失ったはずの指を克服…
痛快すぎる4つの短編には、いずれも今を生きる素敵な女性たちが登場する。彼女たちには、踏まれても踏まれても何度でも起き上がる強さがある。 「ランチのアッコちゃん」「夜食のアッコちゃん」は連作で、派遣社員の主人公と、先輩であ…
五編の短編はどれも切ないが、決して後味は悪くない。それぞれの主人公が切なさを乗り越えて、あるいは切なさを抱いたままでも、前に踏み出していく瞬間が描かれているからである。 最期に収録された表題作は、主人公の喪失感や心の痛み…
想ー像ーラジオー。 番組の高らかなジングルが想像という電波に乗って聞こえてくる。 杉の木のてっぺんから放送を始めることにしたDJアークは、自分の家族の話をしながら、たくさんのリスナーの声を届け、そして素敵な音楽を流す。そ…
押し入れに隠されていた4冊のノートには、繰り返される殺人の告白が生々しく書き綴られていた。それを書いたのは母なのか、それとも父なのか、あるいは別の人物なのか。そしてそれは事実なのか、創作なのか。 単純なサイコパスのような…
アフリカで難民となってオーストラリアに来ることになった女性サリマは、言葉もわからない場所で自分と子供たちが生きていくために働き始める。言葉の壁を感じたサリマは英語を教えてくれる訓練校に通い始め、そこで日本人女性ハリネズミ…
日本から見て地球の裏側でゲリラの人質になった人々が語る物語。死と背中合わせの中で語られる人生の一瞬は、もしかしたら偶然隣り合った他人が過ごしてきた一瞬かもしれない。すべての人にドラマがあり、自分自身にもきっとドラマがある…