嘘と正典(小川 哲)

SFといえばSFかもしれないが、ブラックコメディの要素もあり、サイエンスそのもののような要素もある6編のエンターテインメント小説。
どの作品を読んでも、その世界観は挑戦的で、答えはお前の後ろにあるぞと言われているかのような展開。
そして、最後に振り向いてみると、残念でした、そこに答えはありません、といった肩透かしを食うような、人を食った作品群である。
結構好きな世界観だなと感じながら最後まで楽しく読ませてもらった。

個人的おすすめ度 3.5

熱源(川越 宗一)

舞台は明治から昭和にかけての樺太(サハリン)。
そこで出会い、そこで生きる人々の声が聞こえてくる。
アイヌ人、ポーランド人、日本人、ロシア人、あるいはオロッコなど、それぞれが尊重しあって生きていた場所は、本当の意味での「無知」故に多くの悲しみをもたらしてしまったのだろう。

サハリンに流刑となったブロニスワフの言葉が印象に残る。
「そこには支配されるべき民などいませんでした。ただ人が、そこにいました。」

ただそこで生きるということ、それだけを望むことは罪なのだろうか。

これほど重厚な作品にはなかなか出会えない。
本当に多くの人に読んでもらいたい作品だ。

個人的おすすめ度 5.0

風の海 迷宮の岸 十二国記(小野 不由美)

十二国気シリーズ、今回は王に使える麒麟が主人公だが、やはり世界観が素晴らしい。
麒麟の役割は、新たな王を選び、そして王に使えるというものだが、主人公は幼少期を現代の日本で過ごし、あるとき突然この世界に戻されて麒麟だと言われる。
しかし、この少年がその現状をあまり違和感なく受け入れたのと同じように、読者としてもその世界を受け入れられるのがこの物語の巧みさなのだろう。
人の成長期を描くとともに、この異世界のルールがしっかりと伝わるのが今回の物語であり、シリーズの基礎部分を担う一冊であることは間違いないと思う。
この先を読むのがますます楽しみになった。

個人的おすすめ度 3.5

クジラアタマの王様(伊坂 幸太郎)

アイデアマンの本領発揮という一冊だろうか。
小説の中に、ビジュアル表現が挟まれ、最初はそれが何の意味かがわからないまま進行していく。
主人公にとってそれが理解できないものだからだ。
半分くらいまで読んでも、この物語が向かう先がわからず、しかしそこから一気に結末へ向けて収斂していく展開はさすが。
タイトルの意味も最後にわかるが、もやもやした感じが残るのは、最終的な見解は読者に任せるということなのだろう。
新たな伊坂ワールドを堪能した。

個人的おすすめ度 3.5

会津の義 幕末の藩主松平容保 (植松 三十里)

いわれなき罪を負い、朝敵とされてなお義を貫いた会津藩。
今の時代から見ればその正義が理解できるが、そうでなかった時代を生きた松平容保をはじめとする会津の人々の苦しみはどれほどだったか。
白虎隊の少年たちを弔う碑に刻まれた松平容保の句は、涙なくして読むことができなかった。
結末の解釈にも納得。
読んで損のない一冊。

個人的おすすめ度 4.0

三つ編み(レティシア・コロンバニ)

環境が全く異なる三人の女性が、それぞれの場所で逆境に立ち向かって生きていく姿を描いた、フランス発の世界的ベストセラー小説。

インド、イタリア、カナダと、それぞれ女性が置かれた社会環境は異なるが、この作品では男性を責めるのではなく、社会全体の問題として取り上げながらも、それに立ち向かっていく人たちを描いている。

三つの地域のうち、特にインドの状況は厳しいなと思いながら読んでいたが、後書きを参考にすると、男女の格差に関する世界経済会議の「グローバルジェンダーギャップ指数レポート」では、日本はインドをさらに下回っているとのこと。
指数だけでは表せないものもあるが、日本でこの本が読まれることに一定の意味はあると思う。

三つの物語が集約されていく物語の展開がとても巧く、世界中で読まれているということに納得の一冊だった。

個人的おすすめ度 3.5

マカン・マラン(古内 一絵)

そのカフェとの出会いが、人生を導いてくれる、そんな夜食カフェ「マカン・マラン」。
「私はドラァグクイーン」というオーナーのシャールさんをはじめ、個性的で魅力あふれる人々が集まる場所。
そして、そこには体に優しくておいしい夜食がある。
4本の連作短編になっている物語は、どれも読み終えた後に素敵な味わいが残る。
幸せって何だろう?と思う。
こんなお店があったら行ってみたいな。

個人的おすすめ度 4.0

皇帝フリードリッヒ二世の生涯(塩野 七生)

十三世紀、ローマ法王と対立した神聖ローマ皇帝・フリードリッヒ二世の生涯を描いた歴史巨編。

いつの時代も新しい改革には反発があるが、反対派の最先鋒がローマ法王であった。
フリードリッヒ二世の改革、あるいは施策は、現代の視点から見れば大いに理にかなっていると思えるが、既得権者からすればそれを奪われる恐怖を感じただろう。
一方で、既得権を失うリスクを背負いながらも、時代の変革に協力した人たちも描かれていて、当時のダイナミックな変化が手に取るように感じられた。

皇帝個人の能力に依存せず、優れた人材を育成し続けて持続可能な社会を作ろうとしたことは素晴らしいと思う。
しかし、昔も今も、時代の閉塞感を打ち破っていくには、こうした圧倒的な人物の能力は必要なのかもしれない。

いつもながら、塩野さんの作品からは学ぶことが多い。

個人的おすすめ度 5.0

掏摸(中村 文則)

スリを生業とする主人公は、木崎という危険な男から、拒否することのできない仕事を受ける。
その仕事に失敗すれば待っているのは自身の死。
もし拒否すれば女と子供の死。
孤独に生きながら、人間としての尊厳を失うことなく、自らの人生を選択しようとする主人公の静かなる叫びに共感してしまった。
この作品は、犯罪の良し悪しを論じるものではなく、また、社会の底辺を描こうとしたものでもないだろう。
私(読者)自身に「お前は本当に自分の人生を歩んでいるのか?」という根本的な問題を投げかけているのだと感じた。

個人的おすすめ度 4.0

鹿男あをによし(万城目 学)

ミステリー要素あり、コメディあり、歴史、青春スポ根、そして文学と、様々な要素が奇想天外な物語の中に凝縮されている、まさに万城目ワールドといえる作品。
「あおによし」は奈良を表す枕詞で、奈良の女子高に教師として赴任した主人公が、とんでもない出来事に巻き込まれていく。
先の読めない展開に、ひと時たりとも飽きることがなく、読めば読むほど主人公に共感して応援したくなった。
クライマックスでは、現代人が忘れてしまっている大切なことを思い出させてくれるシーンもあり、単に楽しかっただけで終わってしまうエンタメ作品ではなかった。

個人的おすすめ度 4.0