白鳥とコウモリ(東野 圭吾)

人はなぜ罪を犯すのか。そもそも罪とは何なのか。人を殺してしまうほどの動機は何なのか。なぜ殺人事件が起こってしまったのか。違和感のある容疑者の証言を辿っていくと、そこには複数の家族の隠された過去があった。

事件のことを面白いと表現するのは正しくないかもしれないが、この作品はやはり面白い。一刻も早く先が知りたくて次々と頁を捲ってしまうのだが、読み終えてしまったときにはもうこの面白さを味わえないのかという喪失感すら感じてしまった。物語を楽しむというのはこういうことなのだろう。

容疑者の家族と被害者の家族は、交わることのない白鳥とコウモリのような関係であるのだが、真実を知りたいという気持ちは同じ方向を向いているとも言える。これはこの作品の大きなテーマである。容疑者の息子、被害者の娘らが、それぞれの立場から本当のことを知らなければ納得できないという気持ちに共感する。一方で、メディアやSNSなどで彼らを話題にする身勝手な振る舞いには、罪に問われることのない加害者の姿が見える。

すべてが明らかになり、納得したうえで読了。これで安心して眠ることができそうである。

個人的おすすめ度 4.5