遮光(中村 文則)

この物語を読んでいて、物凄く不快になるのは、主人公のどこかに自分自身の一部を見るからだろうか。善い人間でありたいと願い、少しでも真人間になれるよう努力することは、そうでない自分の現実を認めることなのだろうか。

厭世的、悲観的、あるいは無政府主義者、そんな言葉を並べてみても彼の人生には何の意味もない。彼女を失ったことは通過点に過ぎないし、その彼女の小指を瓶に入れて持ち歩いていることも、小さなことでしかないように思う。彼自身の本質は、それまでの人生の中で培われ、これからもそういう者として生きていくのだろう。

ありのままの自分自身からの逃避──。孤独な自分を受容できず、他人を傷つけることでしか表現できない歪んだ人間関係。鉛のように重たい読後感は、現代社会において、彼のような存在に圧倒的な現実を感じてしまうからかもしれない。

個人的おすすめ度 3.5