スモールワールズ(一穂 ミチ)

人生を振り返ると、あの時がターニングポイントだったなと思う出来事がいくつかある。その時は気づかなかったり、あるいは感情をコントロールできなかったり、あるいは自分では何でもないと思っていたことが他人にとっては重大な出来事であったりする。そんな大切な瞬間を描いた六本の短編は、まったく別の物語でありながら、互いに重なる瞬間を過ごしているのだろうなと思う。

旦那や姪らとの微妙な距離感を描いたネオンテトラ、強すぎる姉の新たな一面を描いた魔王の帰還、鋭すぎる家族模様を描いたピクニック、兄を殺した犯人との文通を描いた花うた、突然再開した娘(息子)との関係修復を描いた愛を適量、夜間高校時代に出会った後輩との関係を描いた式日。登場人物たちはなかなか他人に打ち明けられない悩みを抱え、それをわかっているのは読者だけなのだが、現実の社会もそのようなものだ。だから、どこかで自分自身に折り合いをつけたり、納得をしながら生きていくほかないのだろう。

泣けるところもあれば、背筋が寒くなるところもあるが、心の隙間をくすぐられているような心地のする物語たち──ちょっと心をリセットしたいときに読みたい一冊である。

個人的おすすめ度 4.0