赤と青とエスキース(青山 美智子)

一つの作品が生まれ、人々の目に触れながら、絵もまた人々の変遷を見守っているかのようだ。一枚の絵に連なる人たちの変遷に胸が熱くなった。流れる涙は温かいもので、人を信じたいという気持ちにさせてくれる一冊だった。

オーストラリアでその絵が描かれたとき、モデルとなった女性は何を見ていたのか。作家はそこで何を感じたか。やがてその絵は海を越え、物語の中にたびたび現れる。文字を読んでいるはずなのに、そこには確かに赤と青で描かれた一枚の絵が見えてくる。まるで登場人物の一人であるかのように。

連なる短編の物語は、エピローグで美しい驚きをもって集約される。そして、最後のページを閉じたとき、心地よい幸福感で満たされた。

個人的おすすめ度 4.0