原因において自由な物語(五十嵐 律人)

物語の中に物語が描かれる王道ミステリーだった。閉鎖された病院の屋上から落下したのは自殺なのか、事故なのか。そして、そこに至る過程で何があったのか。

この作品の面白さはまず構成の素晴らしさにある。主人公の前に謎が示され、それが回収されていく過程で新たな謎が提示されていくのだが、それを一緒に考えていくうちに、もしかしたら主人公自身もまた何かを隠しているのではないかと疑ってしまう。

一方、学校での「いじめ」という社会問題の本質にも触れていて、この問題の根深さを改めて感じた。人が心を持っているからこそ悲劇は起こるのであり、目に見えている事象以上に、その間にある人の心を小説は紡いでいくのだろう。

主人公をはじめ登場人物の設定がとてもいいので、シリーズ化されたらまた読みたいと思う。

個人的おすすめ度 3.5