死者は何も語らない。しかし、故人の思いを想像することはある。その思いに引き摺られてしまうこともある。死者が残すという赤い珠を口にすると、その者の最期の願いが見えるという。まるで魚の卵のようなその珠はぎょらんと呼ばれる。 …
小説を中心に、時々ドキュメントやエッセイも読みます。
死者は何も語らない。しかし、故人の思いを想像することはある。その思いに引き摺られてしまうこともある。死者が残すという赤い珠を口にすると、その者の最期の願いが見えるという。まるで魚の卵のようなその珠はぎょらんと呼ばれる。 …
郊外の新興住宅街うつくしが丘に建つ一軒の家。この住宅を購入し、理髪店としてリフォームして新たな一歩を踏み出そうとする夫婦だが、開店を直前に控え、この家が不幸の家だという話を聞く。庭にある大きな枇杷の木も、不幸の象徴のよう…
長崎で任侠の家に生まれた喜久雄は、運命的な出会いから、歌舞伎役者への道を歩むことになる。喜久雄が預けられた家は歌舞伎の家元で、幼いころより後継者として育てられてきた俊介がいた。二人はともに女形として頭角を現し、ライバルと…
「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの第四弾は、タイトルの通り別れてしまったことへの後悔を引きずった人が、過去に戻ることで、納得してこれからの人生を歩んでいけるようになる4つの物語である。現実を変えることはできなくても、…
ユダヤ人迫害が激しさを増す戦争の時代、ひとつの小さな命を守るために、両親はその命を投げ捨てるかのように他人に託した。その命を拾い受けた木こりの夫婦は、天傘の授かりものとしてその子を大切に育てるのだが、そのためには犠牲が伴…
生きている限り明日が来る。その明日が辛くて、自分の生きる価値がわからなくなる時がある。あとから振り返ってみると、前を向けるようになったきっかけは誰かの温かさだったりする。そして、その温かさはずっと前から寄り添ってくれてい…
フェロ店長、ツギさん、光莉さん、魅力的なスタッフが揃ったコンビニ・テンダネス門司港こがね村店。コンビニというと、どこでも同じサービスという安心感がある一方、個性を感じることがあまりなかったが、このコンビニはそこにしかない…
生きづらさを感じる瞬間や、自分が生きている意味を見失うとき、たった一人でも寄り添ってくれる人がいたら、それだけで前を向いて生きて行ける気がする。表面だけではわからない優しさや、笑顔の底にある厳しい決意があったりする。そう…
文豪・谷崎潤一郎の三番目の妻、松子の妹である重子の視点から、谷崎家の人間模様を描いた物語。谷崎潤一郎という人物をここまで掘り下げているだけでなく、妻や姉妹、子どもたち、さらにはその伴侶などを、ここまで個性的に描いている作…
私が子供だった1970年代頃には、まだ上野駅で自衛隊員を募集する人を見かけた気がする。そんな時代に自衛官になった人々を描いた連作短編。国を守る存在でありながら、外を制服で歩くこともできず、名誉や誇りを持つことも難しい時代…