ぎょらん(町田 そのこ)

死者は何も語らない。しかし、故人の思いを想像することはある。その思いに引き摺られてしまうこともある。死者が残すという赤い珠を口にすると、その者の最期の願いが見えるという。まるで魚の卵のようなその珠はぎょらんと呼ばれる。

突然亡くなる命もあれば、ゆっくりと消えてゆく灯もある。連なる六編の物語は、ぎょらんが残された人たちの人生に齎したものを描いていく。そこには正解と呼べるものはないのだろう。ただ、人の死が残された者の人生に影響を与え続けるとき、死が意味するものはこの世界からの完全な消滅ではないように思う。

人は誰もが死を迎える。この当たり前の事実を語ることが憚られる昨今だからこそ、本作品のテーマはとても重要だと感じ、言葉にならない重みとして心に残った。生きていれば大切な人を失うことはある。あるいは、いつか自分も誰かにぎょらんを残すかもしれない。今読むことができてよかったと思えた一冊である。

個人的おすすめ度 4.5