国宝 青春篇/花道篇(吉田 修一)

長崎で任侠の家に生まれた喜久雄は、運命的な出会いから、歌舞伎役者への道を歩むことになる。喜久雄が預けられた家は歌舞伎の家元で、幼いころより後継者として育てられてきた俊介がいた。二人はともに女形として頭角を現し、ライバルとして互いに磨きあいながら成長していくのだが、その道は決して平坦なものではなかった。

芸能の世界を極めようとする者は、他の道を選ぶことは許されないのだろうか。歌舞伎の舞台は彼らの人生そのものであり、彼らの人生が最期を迎えるまでその演目は幕を閉じることはなかった。

私自身は歌舞伎の知識に疎いため、深く理解できていない部分も多いと思うが、それでもなおこの作品の感動は素晴らしい。読了したところで歌舞伎への興味が高まり、さっそく舞台を見にこうと調べてみている。もう少し学びが深まったところで再読すれば、きっと新たな発見がたくさんあるに違いない。

この作品は、二人のほかにも魅力的な登場人物が溢れている。特に女性の活躍は素晴らしく、彼女たちの手腕なくして男など何の役にもたたないだろうと思えてくる。ただ、私がもっとも感情移入した登場人物は徳次郎という男で、子供のころから喜久雄と共に育ち、ずっと喜久雄を支え続ける、誰よりも情に溢れる人間である。

本作はノンフィクションではないかと思うほど人間が生々しく描かれ、読了後も彼らの息遣いが聞こえ続けるほどの余韻が残る。

個人的おすすめ度 4.5