夜が明ける(西 加奈子)

「俺」がその一言を云えるようになるまでに、どれほどたくさんの時間を費やしてきたのだろう。誰にも気づかれない孤独の中で、真っ黒な胸の内を隠して、自分ではない何かを演じて生きていく人生の辛さよ。血を流しながら、死ぬこともできない惨めさよ。小説を読みながら、これほど苦しさを感じたことは久しぶりだ。

しかし、アキにとって「俺」はその闇を照らしてくれた存在であったのかもしれない。そして、誰かに必要とされた経験、誰かに存在を認められた経験、たったひとつのその経験だけが、人を生かしてくれることもあるかもしれない。

現代の、大都会の中の、雑踏の中の孤独。そのリアルさが迫ってくる。夢とか希望とか、ほしいものはそんな高尚な言葉ではない。最後まで読み、このタイトルの意味が明かされたとき、そこにあったのは一握りの安堵だった。

きっとこの物語を書きながら、著者も心の中で多くの血を流したに違いないと想像した。

個人的おすすめ度 4.0