森のなかの海(宮本 輝)

阪神大震災を経験し、夫に裏切られるように離婚した希美子は、昔知り合った老女から奥飛騨の山荘などの遺産を受け継ぐ。
二人の息子とそこで暮らし始めるが、離婚前に近所に暮らしていた三姉妹をその山荘に引き取り、さらにその友達もやってきて大所帯での生活をすることになる。

その山荘がある山には、不思議な大樹がある。
いくつかの木が絡み合うようにして大きくなったもので、彼女たちはその木を「大海(ターハイ)」と呼ぶようになる。
主人公をはじめ、それぞれが決して一口では言えない哀しみを背負っているが、山荘での暮らしは少しずつみなを癒していく。

一方、彼女に山荘を譲った老女にも、秘められた過去があった。
主人公たちはその過去を辿り、やがて過去と今が繋がって、老女を巡る物語が見えてくる。
ターハイと呼ばれる樹のように、あらゆる現実を受け入れて生きていこうとする主人公らの姿に感動する。

物語としての構成の素晴らしさはもちろんだが、随所に散りばめられたトピックスもとても面白く、植物のこと、食べ物の事、文学の事、焼き物の事など、興味を掻き立てられる。
そうした物事もまた、人に生きる勇気を与えるものなのだと思う。

上下巻にわたる大作も、読み始めたらのめりこむように没頭し、あっという間に読了となった。

個人的おすすめ度 4.0