夜の谷を行く(桐野 夏生)

連合赤軍による事件が起こったのは私が生まれる数年前のこと。出来事としては知っていたが、極左集団によるテロ事件という程度の認識しかなかった。この作品の主人公は、連合赤軍に参加した一人の女性。逮捕されて服役したのち、当時の仲間との連絡もたったまま静かに暮らしていた。そこへ、かつての仲間の一人から連絡が来る。

事件当時、彼女たちはどのような世界を見ていたのか、なぜあのようなリンチ殺人事件へと発展していったのか、そこには表面的な報道だけでは見えてこない人間の姿があった。一線を越えてから雪崩を打つように止まらなくなってしまった狂気は、人間として誰もが陥る可能性があると感じた。

犯罪者として罪を償った彼女がいる一方、その家族らもまた大きな社会的制裁を受けた。本人と家族は別人格であり、犯罪とは関係ないというのは建前でしかなく、それは多くの事件で同様のことが起きているのだろうと想像した。センセーショナルな事件は、たんなるエンターテインメントのように報道され、その背景にある人間的な要素は「理解できない事柄」として葬り去られてしまう。

この作品のすばらしさは、そうした見えないところに焦点を当て、人間の本質をついているところにあると思う。驚きのラストに繋がる物語の構成も非の打ちどころがなく、心をえぐられるような一冊だった。

個人的おすすめ度 5.0