類(朝井 まかて)

森鷗外と妻、そしてその子供たちの生涯を、末子の森類の視点から描いた力作。千駄木の自宅の風景とそこに暮らす主人公らの姿が克明に浮かぶ。鷗外が亡くなってからも、家族の人生は鷗外なくして語られることはなかっただろう。

類は両親や兄姉たちからの愛情を一心に受けて育った。ある意味、愛があるのが当たり前の環境であり、経済的にも豊かであった。鷗外の息子という大きな看板を背負って大人になった類は、現実の自身の評価に苦悩するのだが、もし看板がなかったらもっと幸せ感じられていただろうか。この一冊を読み終えた私は、否だと思う。

医学部教授となった長男の於菟、作家として大成する長女の茉莉、多彩な才能を見せながら人への気遣いもできる次女の杏奴、それぞれが自分の道をしっかりを歩む中、類は苦悩の日々を送る。もしこの作品が彼以外を主人公にしていたら、きっと鷗外の子であることの大変さはあまり伝わらなかったかもしれない。類がどのように生きてきたのかということこそ、家族に残された大きな課題を象徴しているものだと感じる。

中盤から後半にかけては、もはや他人事とは思えず、類の家族になったつもりで読み進めた。そして、最後の一文を読み終えて唸った。人生とはかくも美しいと。

個人的おすすめ度 4.5