蒲生邸事件(宮部 みゆき)

1996年に発表されて以来、長く読み続けられている著者の代表作のひとつ(代表作がたくさんあるが)。平成が始まって間もない頃、主人公は受験のために上京してホテルに宿泊していた。受験が終わった直後、ホテルで大火災が発生し、その中で主人公は昭和十一年の二・二六事件の最中にタイムスリップしてしまう。

ホテルがあった場所は、かつて蒲生邸という邸宅があり、二・二六事件の際に蒲生大将が自決した場所であった。主人公はその家に入り込むことになるが、戦争を知らない世代の十八歳の青年は、教養も貧しく、精神年齢も幼いために、その傍若無人な行動にイライラすること多々。しかし、顧みればそれは私自身、あるいは戦後生まれの私たちを象徴している。

二・二六事件が発生し、蒲生邸では大将が亡くなる。成り行きで主人公もその場に居合わせ、その亡骸を目撃することになるが、不思議なことに自らを撃ちぬいたはずの拳銃が見当たらない。本当に自決なのか、あるいは他殺なのか、そして何が起こっているのか、このあたりから物語が一気に展開して面白くなっていく。

当時の空気感や人々の様子には臨場感があり、個性的な登場人物たちも印象に残る。その中でなかなか成長しない主人公が最後にどのようになっていくのか、そもそも物語の結末がどうなるのか、それは読んでのお楽しみということで書かないでおこう。日本SF大賞を受賞した本作、読んでおいて損はない。

個人的おすすめ度 3.5