銀花の蔵(遠田 潤子)

奈良の醤油蔵を受け継いでいく家族模様を描いた人間ドラマであり、蔵をめぐるある謎を紐解いていくミステリーでもある本作。様々な伏線が張り巡らされた綿密な構成が素晴らしく、それでいて登場人物たちの表裏両面の心も見事に描いている。

親の事情で醤油蔵に住むことになる主人公の銀花。その蔵には、当主となる人間にしか見えないという座敷童の言い伝えがあった。鞍を継いだ父は、醤油づくりには熱心になれず、母は母で問題を抱えている。両親をはじめいろいろな問題を抱えた人々の間で、彼女は蟠りを感じながらも大人になっていく。

醤油蔵の様子や醤油作りの描写にも臨場感があり、醤油を作る過程と子育てを重ね合わせるシーンはすっと腑に落ちた。人を育てることの難しさと、そこから得られる喜び、そして血縁を超えた人の繋がりのあり方が、醤油づくりとしっかりシンクロしている。

後半は泣ける場面が何度もあり、ひたすら引き込まれて一気に読了した。

個人的おすすめ度 4.0