じんかん(今村 翔吾)

松永久秀というと常に裏切り者というレッテルを貼られ、悪人の代表のようなイメージで描かれることが多い。極悪人とされる人間の心の内を想像しようとする人は少ない。本作品は、松永久秀という人の生き様をから、人間社会が向かうべき未来を指し示そうとした意欲作だと感じた。

九兵衛(松永久秀)は、仕える主家を殺し、将軍を暗殺し、そして東大寺大仏殿を焼いたという。それはなぜなのかを語るのは信長である。織田軍に責められて最期の時を迎えようとしている中で、そこに至るまでの九兵衛の人生が明らかになっていく。

登場人物たちの人間臭さと魅力が心に残る。大衆の愚かさも愛しさもすべてあわせて、それが人間というものである。人間は「にんげん」と読めば人のことだが、「じんかん」と読むと人と人の関係のことになる。そして、裏切り者と言われる松永久秀が最も大切にしたものこそ、じんかんであったのだろうと理解した。

後半は心が震え、そして涙が零れた。多くの人に読んでもらいたい一冊である。

個人的おすすめ度 5.0