星落ちて、なお(澤田 瞳子)

江戸から明治にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎。絵に対するその姿勢を自ら画鬼と称し、人生のすべてを絵に捧げ、自らの息子や娘にも絵師となることを求めた。娘のとよと暁斎の関係は、親と子ではなく、絵を通した師匠と弟子の関係であった。そのため、暁斎が亡くなってなお、とよは父を憎まずにはいられなかった。この物語は、絵師として生きるとよの視点から、とよとその周囲の人々の人生を描いた大作である。

明治に入って西洋の絵画がもてはやされるようになり、狩野派らの日本画は過去のものとされつつあった中、絵師としての振る舞いはとても難しいものだったのだろう。芸術や芸能の世界で生きる人々にとって、自分が信じる道を究めることと、それを糧に生活をしていくことは必ずしも一致するものではない。また、親兄弟という切っても切れないものと、師匠と弟子という関係、その狭間はで悩み続けるとよや兄の複雑な心境が染みるように伝わってくる。

この作品を読んでいると、様々な人生があり、様々な幸せがあるのだという当たり前のことに気づかされる。特に清兵衛とぽん太の生き方には、本当に美しい人生というのは、単なる表面の話ではないのだということを感じた。この一冊の中に多くの人生が凝縮されていて、何冊もの本を読んだような感動があった。

個人的おすすめ度 4.0