悲しみの秘義(若松 英輔)

悲しみは忌むべきものではない。悲しみを知るからこそ人は人たりえるのではないか。そうして考えてみると、腑に落ちることがあった。26編のエッセイには、作家や哲学者が残した文章や詩、和歌などが引用され、悲しみや孤独と向き合うきっかけが示されている。

例えば、宮沢賢治の詩から、愛しい者を失うことの悲しみとあわせて邂逅への喜びを見る。あるいは、批評家・越知保夫の一文から、情報過多の中で見落とされている本当の意味での「よむ」ことの意味を見る。

涙とともに読んだところも複数ある。例えば7編目の「勇気とは何か」で岩崎航の詩を読んだときの気づき。さらには14編目「花の供養に」で石牟礼道子が水俣病でなくなった女性の母の言葉を綴った一文から見える景色。心に刺さったところも多数あり、中でも25編目「文学の経験」で夏目漱石の「こころ」を読むことからわかること。

一度読んだだけですべて理解できたとは到底思えない。ただ、この本を本棚に残しておいて、本当に深い悲しみに暮れたときにもう一度読みたいと思う。悲しみは、哀しみでもあるが、(かな)しみ、(かな)しみにもなるのだから。

個人的おすすめ度 5.0