カケラ(湊 かなえ)

少女は大量のドーナツに囲まれて死んだ。彼女は、かつての同級生の娘らしい。美容整形外科医の橘久乃は、彼女の死の真相を求めて関係者に話を聞いていくが、そこには人々が抱えるコンプレックスの欠片(カケラ)が散らばっていた。

太っていること、背が低いこと、鼻が低いことなど、人がもつコンプレックスは十人十色だ。他人からすれば必ずしもネガティブな要素ではないとしても、その人自身がどう感じているかが問題なのだろう。そして、多くのコンプレックスはビジネスになる。ダイエットにしろ、美容整形にしろ、それが解消されることで前向きに生きられるなら、積極的に投資する価値があるように思う。

ただ、それが個人の問題であるうちはまだいいが、自分と似たような容姿だから、あるいは似たような境遇だから、同じようにコンプレックスに感じていはずだと、善意の押し売りが始まると厄介である。逆に他人を自分と同じ不幸に引きずり込んでいることにさえ気づかない恐ろしさがある。

もっともよい解決方法は、自分自身がもっているコンプレックスの欠片がパズルのようにきれいに収まる場所を見つけることなのだろう。しかし現実問題、それができるなら世の中の多くの問題は解決していることだろう。

この本を読んでいて怖いなと感じたのは、身近にありそうなことであると同時に、私自身の中にもこうした感情があることを否が応でも認識してしまうことだった。

個人的おすすめ度 3.5