人質の朗読会(小川 洋子)

日本から見て地球の裏側でゲリラの人質になった人々が語る物語。死と背中合わせの中で語られる人生の一瞬は、もしかしたら偶然隣り合った他人が過ごしてきた一瞬かもしれない。すべての人にドラマがあり、自分自身にもきっとドラマがあるのだろう。

語られるのは、八人の日本人と、一人の特殊部隊の兵士の話である。ふとすれば気づかずに通り過ぎてしまうような出来事。しかし、なぜか忘れられないエピソードがあり、それが人生に大きく影響を与えていることがある。自分が死んでしまっても、そうした一瞬の物語が残るとしたら、それは生きた証となって誰かの心に生き続けるかもしれない。

九編の中で特に心に残ったのは、やまびこビスケットとハキリアリの話。しかし、どの話が響くかは、読むときの自分の状況によって変わるかもしれない。他の人の人生に少しだけ耳を傾けてみると、全ての人に生きる意味があるのだという当たり前のことに気づけるのではないだろうか。

個人的おすすめ度 3.5