他の鯨には聞こえない声で歌う孤独な鯨がいるという。そのトーンは52ヘルツ。主人公のキナコは、誰にも聞こえない声を上げ続け、孤独の中で生きてきたのだが、やがてその声を聴いてくれる人が現れる。そして、同じように52ヘルツの声を上げている存在がいることに気づき始める。
どうしてみんなこんなにも辛い人生を歩まなくてはいけないのだろう。どうして誰か気づいてあげないのだろう。その声が聞こえたはずなのに、どうしてなかったことにしてしまえるのだろう。この物語に出てくる人たちの心の叫びは、社会という海の中へ消えていく。孤独の中で生きる気力を失おうとしているとき、その声を聴いてくれる人がたった一人いるだけで、そのことを支えに生きていけるのに。
キリコ、アンさん、52、彼らの人生は涙なくして読めない。あるいは、一見すると加害者に見える親や恋人たちも、本当は誰にも聞こえない声をあげていたのかもしれない。彼らの人生が気になり、深夜まで読みふけった頁を捲り続けた。
個人的おすすめ度 4.5