鍵・瘋癲老人日記(谷崎 潤一郎)

五十を過ぎた男と、その妻が、互いの性生活や性欲のことを日記に綴っていく「鍵」。互いに読まれることを意識した日記だが、互いに相手の日記は読むことがないと主張しながら、実際のところはわからないまま物語は進んでいく。 一見すると色情魔のように見える彼らだが、羞恥心を取り去った後に露出する人間の性欲というのは、そうした面を持っているのかもしれないと思う。

瘋癲老人の方は、七十を過ぎた老人男性が、息子の妻に対して固執し、その要求はやがて常軌を逸したような行動へと繋がっていく。文化的な知識も豊富な老人は、自身の偏執を把握しながらも、より純粋にその欲求に従って生きているように見える。もし老人になるということが、欲求に素直になっていくことなのだとしたら、年を取ることが怖くなってくる物語だった。

以前、文学好きの外国人留学生と話をした際、谷崎潤一郎について「変態の小説家だ」と評価していたが、確かにそれは間違いないなと感じた二作品である。

個人的おすすめ度 3.0