遠縁の女(青山 文平)

江戸中期の武家を描いた、表題作を含む三篇。

「機織る武家」は、貧しくなっていく家で、家族を支えるために機を織る妻を描く。家には、うだつの上がらない夫と、武家としての生き方に拘わる姑がいて、自分の居場所はとても小さい。一度は離縁してもらおうと決心するが、機織りが人生を変えていく。

「沼尻新田」は、砂ばかりの大地の新田開発を持ち掛けられる武家の話。国の理不尽な政策によって苦しめられる人々がいる一方、それでも強く逞しく生きていこうとする姿に心が熱くなる。同じ体制が長く続くと、行政は腐敗するというのは今も昔も変わらない。

「遠縁の女」は、武家の跡継ぎが父から修行に出るように言われて国を出て自らの在り方を追求する前半と、国へ帰ってみてからその間に起こったことを追求していく後半で構成されている。武士は常に死をもって責任を果たそうとするものであるが、本当に命を懸けるべきことは何か、そして本当に命の責任を負うべき者がそれを果たしているのか、ということが問われる。これもまた、現代の無責任な政治や行政と同じ構図であろう。

時代を経ても、人は圧倒的に不完全なままである。だからこそ物語が生まれ、そこに共感が生まれる。三篇はいずれも人の心に寄り添った作品であった。

個人的おすすめ度 4.0