甘夏とオリオン(増山 実)

主人公の甘夏は、大阪で落語の世界に飛び込んだ。しかし、ある日、何の前触れもなく師匠が失踪する。甘夏は兄弟子たちと一緒に「師匠、死んじゃったかもしれない寄席」を始める。

弟子入りした頃の甘夏は、人間としても半人前、社会人としては半人前どころか未熟そのもの。それ故に怖いもの知らずで、猪突猛進、ある意味では純粋に落語に取り組んでいく。そんな彼女に、師匠や兄弟子は厳しい言葉を投げかけるのだが、それが悉く的を得ていて、同時に読者である私自身の胸にもグサリと刺さった。

また、落語の奥深さもまたしっかりと描かれていて、上方落語の様々な噺が出てくる。それぞれの噺の奥深さや、噺家による違いなども表現されていて、落語を聞きに行きたいという気持ちにさせてくれた。

挫折のない人生より、たくさんの紆余曲折が物語になる。時には泣き、そして笑いながら、頑張って生きていこうと思える素敵な物語だった。

個人的おすすめ度 4.0