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能楽ものがたり 稚児桜(澤田 瞳子) – まったくの拓の読書備忘録

能楽ものがたり 稚児桜(澤田 瞳子)

能楽の曲目をベースにした八つの物語。安易なハッピーエンドではなく、逃れられない人間の業が溢れていて、能面の下にある人間の本性に怖さを感じた。

山の中で山姥の舞を見せる遊女の心中を描いた話や、裏切られてもまた信じたい女の話。そして、表題にもある稚児桜は、幼くして捨てられた子供の話。大海人皇子が大友皇子と闘うことを決意するときに同行した女の話。山中で出会った男の死を告げに陸奥まで旅する男の話。家出した姫を屋敷へ無事に帰したい乳母の話。扇をくれた男を追って宿を飛び出した遊女の話。光源氏と葵上を見つめる醜女の話。

どれもこれも、一筋縄ではいかない人々の姿が描かれていて、その中のいくつかには自分や自分が関わってきた人に重なることもたくさんあった。いつの時代も人間の心はそれほど変わらないものなのだろう。

余談ではあるが、本作の直木賞ノミネートに際して、淡交社という出版社を初めて知った。茶道の専門雑誌や書籍を出版している会社で、本作品は月間なごみというお茶の雑誌に掲載された作品が文庫化されたものである。

素敵な本を世に送り出してくれた淡交社と、日本文化の素晴らしさもあわせて教えてくれた著者に心より感謝申し上げたい。

個人的おすすめ度 3.5