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残月記(小田 雅久仁) – まったくの拓の読書備忘録

残月記(小田 雅久仁)

月を題材とした世界観の作品3篇。当たり前だと思っていた日常が崩れていくとき、人はそのことをどう受け入れていくのだろう。生きていかねばならないという前提があるとすれば、たとえ理解できないことが起こったとしても、どこかで折り合いをつけていくしかない。きっとそれは、私たちの日常でも多かれ少なかれ起こっていることなのかもしれない。

特に、表題となっている「残月記」は、月昂という感染症に罹った主人公らがおかれた境遇をめぐる物語であり、現在進行形のコロナ問題とどこかしら重なる部分もある。誰もが人間らしさを尊重される社会が理想だという建前と、感染症の患者はこの「人間」という定義から除外されていく様は、人間が大きな矛盾を抱えて生きていることを示しているように思う。

ファンタジー要素のあるハードボイルドといった雰囲気の作品だが、独特の世界観にはリアリティも感じられる。単なる夢物語のような世界でもなければ、ただ明るい世界でもない。どちらかというと人間のダークサイドを描いているように感じる物語は、まるで満月に照らされた社会のように、怪しく美しい月夜の雰囲気を持っていた。

個人的おすすめ度 3.5