ブラックボックス(砂川 文次)

メッセンジャーの仕事をしている男の心の内を刻々と綴る前半、そして突如シーンが変わってそこに至る過程と気づきが描かれる後半。どことなくニヒルな雰囲気もある主人公だが、その内にある抑えようのない衝動が彼の人生を導いていく。社会的な生物としての人間者、自分自身と向き合うことで、やがて他者というものが社会に存在していることを認識していくのかもしれない。

物語の構成が秀逸で、前半と後半がやがて繋がっていくところが面白い。また、組織の中で生きていく以上、避けることのできない人間関係の難しさは、少なからず共感できるところもある。淡々とした語りの行間に、主人公が感じている生きづらさが垣間見えるような気がした。

この社会はブラックボックスのようなもので、中の理屈はわからなくても、何をすれば何が起こるということは経験をすれば理解できるようになる。とどのつまり、人生はそういうことの積み重ねなのかもしれない。

個人的おすすめ度 3.5