第二次世界大戦で女性を兵士として戦場に送ったソ連。女性として、ロシア人として、人として、何のために戦うのか、そして戦った後に何があるのか、いくつもの問いかけが弾丸のような速さで戦場を駆け抜けていく。圧倒的な臨場感、そして主人公たちの心の葛藤に、自分が読者であることを忘れて没頭した。
戦争という愚かな行為は誰のためのものだろうか。尊厳され守られいないまま失われていく命の数々。狙撃兵となった主人公の女性、あるいは彼女が所属した狙撃部隊の仲間たち、その視点から見える世界には単なる善悪では片づけられない人間の姿が見える。人を殺しながらも、人間性を保つということの矛盾をどう消化していくのか、そのことは戦争の歴史の中であまり語られない部分なのだろう。
また、女性を社会的な弱者としておきたい男性社会の傲慢。民族をひとくくりにして均質化してしまうような人間性の欠乏。今もなお社会の歪となっている問題は、戦争という人間性を否定される状況下では、恥ずかしげもなく露になっていくのだろう。
アガサ・クリスティー賞受賞の本作品は著者のデビュー作だという。「衝撃のデビュー作」とはまさにこのことだ。
個人的おすすめ度 5.0