うつくしが丘の不幸の家(町田 そのこ)

郊外の新興住宅街うつくしが丘に建つ一軒の家。この住宅を購入し、理髪店としてリフォームして新たな一歩を踏み出そうとする夫婦だが、開店を直前に控え、この家が不幸の家だという話を聞く。庭にある大きな枇杷の木も、不幸の象徴のように見えてくる。もともと夫婦がこの家にたどり着いたのも、夫の実家との確執があった結果だった。

物語は、少しずつ歴史を遡りながら、この家に住んだ人々がここでどのように暮らし、そして旅立っていったのかを丁寧に描いていく。確かにその時々にここで暮らした人たちの心が乱れる瞬間が何度もあった。しかし、そのひとときだけを眺めて、彼らが不幸だったと決めるのは誰だろうか。読んでいてどうしようもなく辛い気持ちなりながらも、小さな希望を求めて頁を捲った。

次々と伏線が引かれては回収されていく展開、そして最後にすべての物語がもつれ合うように繋がっていく。素晴らしい構成力、美しい言葉で紡がれる描写、そしてハッとさせられる登場人物たちの一言、すべてが素晴らしい。今日も良い一冊に出会えたことに感謝する。

個人的おすすめ度 4.0