黒王妃(佐藤 賢一)

日本が戦国の世だった十六世紀、ヨーロッパでも戦争が繰り返されていた。特にカトリックとプロテスタントによる宗教戦争は熾烈を極めた。カトリーヌ・ドゥ・メディシスは、そんな時代にフィレンツェで生まれ、フランス王家に嫁いた。夫の愛人との確執や宮廷での蔑みの声に耐え、やがて権力を握るようになっていく王妃の強さと苦悩を描いた歴史小説である。

女性として家族を思う一方、王妃あるいは王母として国を思う姿勢、その間での葛藤は、常人では耐えられない重圧であったと想像する。不毛な宗教戦争の歴史を追いながらも、個々の人々が善悪両面を備えている様が丁寧に描かれていて、実際の現場にいるようなリアリティを感じた。

ルネサンス期でもあり、カトリーヌがフランスへ伝えた食事や服飾、化粧品、あるいは星占いなどは、現代へと至る文化の礎にも寄与しているという。互いに戦争をしながらも、人を通して文化が広がっていく様子も興味深い。

ヨーロッパの歴史にはとても疎い私にとって、たくさんの学びと気づきを得られた一冊であった。

個人的おすすめ度 3.5