黄金列車(佐藤 亜紀)

第二次世界大戦時の末期、枢軸国であったハンガリーでも、ユダヤ人への迫害と資産の没収が行われた。そのユダヤ人資産を管理し、オーストリアに移送するための列車に乗ることになった主人公らだが、その道のりは困難に満ちていた。

また、主人公の友人であるユダヤ人の家族らの運命はさらに過酷であった。ハンガリーは多民族国家で、ユダヤ人も多く住んでいたというから、主人公のようにユダヤ人と懇意にしていた人々も多かっただろう。迫害された人々の苦しみは言うまでもないが、その関係者も含めて人の心に残した傷跡は大きいだろう。

黄金列車は西へと走っていく。没収資産は誰のものなのかという根本的な問題からは目をそらしながらも、資産管理を担当する人々は真面目に任務を遂行し、記録をつけ、誰かが勝手に持ち出したりすることがないよう管理した。理不尽に耐えるばかりでなく、臨機応変に難局を乗り切っていく彼らの姿は、フィクションでありながらもリアリティを感じた。

巻末に、物語が終わった後にこの資産がどのように扱われたのかの説明も加えられていて、よい学びのある一冊であった。

個人的おすすめ度 3.5