魂萌え!(桐野 夏生)

主人公は五十九歳の主婦。恙無い夫婦生活を送ってきた。しかし、夫が突然死してまもなく、夫の携帯電話に女性からの電話がかかってくる。夫の隠し事が明らかになり、また、息子と娘は母親の心など慮ることもなく相続の話をする。仲良くしていた同級生たちに悩みを打ち明けると、それぞれが勝手な助言をして、やがて今までの関係性も難しくなっていく。

一つひとつの出来事はありふれたことだが、それが自分の身に降りかかったとき、うまく対処できるかと言えば決してそうではない。だからこそ人間らしさがそこにあるのだが、他人に見せたくない恥ずかしい部分でもある。

この作品に出てくる女性たちは多少勝手に見えるが、男どもはとんでもなく勝手である。だが、確かにこんなものだなと納得してしまうのがこの作品の巧みさかもしれない。主人公だけでなく、この作品に登場する人々は誰もが普通の人であり、そうした人こそが魅力的で面白い。

本作品の映画を随分前に鑑賞した記憶があるが、それとはまた違った印象に感じたのは、自分自身が以前よりも主人公らの年齢に近づいたからかもしれない。吹っ切れたような読後感のある物語だった。

個人的おすすめ度 4.0