駆け込み寺の玄さん たった一人のあなたを救う(佐々 涼子)

新宿歌舞伎町で駆け込み寺を開き、人を助け続ける玄さん。ここでしか相談できない問題を抱えてやってくる人々。相談者に対して可哀そうだと同情するのではない。時には厳しい言葉を投げかけるが、本気で人生をやり直す意思のある人を見極め、本気で助けようという強い姿勢が見える。

ここに至るまでの玄さんの生き様が、これほどまでに強く、それでいて繊細な人物像をつくり上げてきだのだと感じたが、きっとそれは側面的な一部に過ぎないのだろう。本人でさえはっきりとわからないと言っている通り、様々な出来事があって人を助けられる人となってきたのだろう。しかし、その一部だけでも知ることが、人としてどう生きるべきかを考える一助となる。

きれいごとで人は生きられないし、人は守れない。それがわかっていても、実際にそうやって生きられるわけではない。人はきれいごとで着飾って、自分の正しさを表現して生きようとする。何事もなければそれで生きていける。ただ、ある時それだけで対応できない不測の事態に直面し、本当に生きたいのかを問われることになる。

歌舞伎町という場所では、煌びやかに着飾った人々の心がネオンに照らされて輝いている。そして、華やかな街の裏側で、何色ともつかない混沌とした人間の欲望が渦巻いている。そこにある駆け込み寺には、人が死に物狂いで生きていきたいと思う人が来る。

私自身はこの本を読んで思う。必死に生きていこうと。いつか人は必ず死ぬのであるから、必死に生きるのは当たり前のことだ。理屈で考えるのであればとことん理屈で考えればいい。しかし、最終的に自分自身の強い意志が自分を生かすのだと玄さんは教えてくれる。

個人的おすすめ度 4.0