雲を紡ぐ(伊吹 有喜)

羊毛を織って作るホームスパンは、様々な色に染め毛をより合わせて糸をつくることで、様々な色合いを生み出すことが出来る。それはまるでたくさんの人が互いに繋がって美しいハーモニーを奏でるかのようである。

学校に行けなくなった高校生の娘を、両親や母方の祖母は理解できない。そして、ある日、娘は父の故郷である盛岡へと向かう。そこにいたのは、ホームスパンの職人である祖父だった。

自己肯定ができない彼女に、祖父は言う。
「大事なもののための我慢は自分を磨く。ただ、つらいだけの我慢は命が削られているだけだ」と。

彼女は羊毛を織ることに興味を持ち、自分自身と向き合い始める。

子どもが育っていく過程で、子の悩みがある一方、両親もまた不完全な存在であり、人として成長していかなくてはならない。しかし、必ずしもそれがうまく噛み合うわけではない。織物を織るとき、最初から上手にできる人はいないように、人生も苦労なく上手に生きられるわけではない。何度も失敗を繰り返しながら、その先に美しい未来があることを信じて進んでいくしかない。

この本が素晴らしいのは、人と人が織りなす美しさを語る中で、様々な要素が散りばめられていることである。ホームスパンのこと、絵本のこと、宮沢賢治や石川啄木の文学のこと、草花のこと、盛岡という素敵な地域のことなど、読んでいて興味を惹かれることばかりである。

最後に引用されている宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の一節にも感動する。

読んでいて何度も泣けた。
そして優しい気持ちになれた。
辛くても頑張ろうと思える素敵な読後感。
おすすめの一冊である。

個人的おすすめ度 4.5