逆ソクラテス(伊坂 幸太郎)

伊坂さんらしいユーモアと皮肉に溢れた短編集で、面白さも然ることながら、人としての筋を一本通しているところにも納得の素晴らしい一冊だった。表題作を始めとする各作品のタイトルもよく考えられていて、最後まで読むとこの五編がただ無造作に並べられているわけではないということにも気づく。

主な登場人物は小学生あるいは小学生の頃に関係があった仲間たちである。そして彼らから見た大人たちは、そういえば私自身が子どものときに眺めていた大人たちでもあり、今の自分自身でもあった。ここではあえて内容は説明しない方がいい。何の先入観もなくこの本を読んだ方がいいだろう。

本は、逆ソクラテスから始まり、逆ワシントンで終わる。その過程を本に潜るような感覚で読むと、潜る前に見た世界と、再び水面に顔を出した時の世界は、同じ世界なのに違うものに見えるかもしれない。

兎にも角にも、良い一冊に出会うことができて幸せである。

個人的おすすめ度 4.5