読了後の切ない余韻が心地よい。
大正の名女優・
彼女の死後、ある場所で顔をそろえた彼らは、それぞれの立場から彼女との時間を回想していく。
伊澤蘭奢あるいは本名である
彼女は、自分のことを見る妬みとも羨望ともとれる娘らを見て思う。
『口惜しかったら、あなた方もこっちの岸へ渡っておいでなさいな。簡単なことよ。人並みの道徳心と月々の経済、そして精神の安定を捨てる勇気さえあれば、その川は渡れる。』
女優という仮面の裏側に、覚悟を決め、多くの犠牲を払いながら生きていく一人の女性の姿があった。
そして、多くの人が伊澤蘭奢のことを勝手に語り、彫琢していくのである。
『華やかで地道で、嘘つきで誠実で、美しくて醜くて、情熱的で冷静だ。そして母のようにあたたかく、淪落の女のように妖しい。』
また、読み進めていくと出てくるチェーホフの「桜の園」が物語と何度も交錯し、この作品そのものが舞台のようにも見えた。
大正から昭和にかけての時代の雰囲気、そして舞台の世界の雰囲気に引き込まれ、私自身もその
個人的おすすめ度 4.0