路(吉田 修一)

台湾に日本の新幹線を導入する大きなプロジェクトが始動する。商社に勤務する多田春香は、そこに携わるために現地で活動を始めるのだが、彼女の台湾への思いは特別なものがあった。かつて、台湾へ行ったときに出会ったエリックという男性の記憶であった。

物語は、新幹線事業の進捗と並行して、人々の出会いと人生(路)が描かれていく。春香だけでなく、日本で働く台湾人建築家・劉人豪、台湾の高尾に住む若者・陳威志、台湾生まれの日本人・葉山勝一郎、さらには春香の先輩社員・安西誠らが、それぞれに訪れる素晴らしい出会いが人生を彩っていく。

人の活力を感じる台湾の描写は、その匂いさえ伝わってきそうなほどの臨場感がある。登場人物たちの喜怒哀楽も、まるで表情が見えるかのように命を感じる。小説を読んでいることさえ忘れ、物語の世界に入り込んでしまった。

台湾と日本の人々の心をつなぐ新幹線。その路が素晴らしい未来へつながっていくことを願う。

個人的おすすめ度 4.0