貝に続く場所にて(石沢 麻依)

東日本大震災で津波にさらわれて行方不明になった知人が、ドイツのゲッティンゲンに現れる。そこで流れる淡々とした時間──そう、時間である。同じ場所にいても、過去を生きた人やそこにあったものと、今生きていてここにあるものは、重なり合うことがないように思える。しかし、それが重なり合うとしたら、どんなことを感じるだろう。

異なる時間軸が交差する世界を自然に受け入れたら、こんな風に生きていけるのだろうか。それは頭の中ではいつも整合性をもって起きていることなのだろうか。それぞれの人生が目に見えない糸でつながっていて「今」を紡いでいる。

じっくりと読む文学というものの面白さを感じさせる芥川賞受賞作である。

個人的おすすめ度 3.5