護られなかった者たちへ(中山 七里)

福祉保険事務所に勤める男が殺された。手足を縛られ、そのまま放置されたことによる餓死であった。なぜこんなにも惨い死を迎えることになったのか。その背後には、人を護るはずの社会保障制度が、人を切り捨てている現実があった。

子供のころ、もし目の前に困っている人を見つけたら、助け合えるのが人間だと教えられた気がする。しかし、社会に出てみると、世の中はそうではないことに気づかされる。そして、その現実に目を背けないと自分の心が護れない瞬間があるのかもしれない。

国として誰を護り、誰も護らないのか、それを決める権利は誰にあるのだろう。生活保護という制度が何のために存在するのか、憲法が保障する人間らしい生活とは何なのか、国民のだれもが幸せに暮らせるようにするために何を考えてなくてはいけないのか、そんな当たり前のことも、自分自身や近しい人が困難に直面しない限り、考える機会は少ないだろう。

格差社会、貧困、そうした言葉が多く聞かれるようになっている昨今、この物語は多くの現実を伝えていると感じた。

個人的おすすめ度 4.0