血の轍(相場 英雄)

警察組織の中で対立する刑事と公安。大きな事件に直面してもなお、その対立は収まることがなく、社会の秩序と安全を維持するという本来の目的よりも、自分たちの組織を守ることが優先してしまう。正義感溢れる人間も、その中に入ればやがてそのしがらみから抜け出すことができなくなっていく。

かつて同じ組織にいた二人の男は、刑事と公安という立場になり、ある事件をきっかけに深いわだかまりを抱えるようになる。その背景に、妻や子を愛し守るという個人の幸せよりも、組織の正義が優先される警察という権力があった。そうした組織にとって、二人のような存在はとても「優秀な人材」だったのだろう。

前半は元刑事が殺された謎を追う展開だが、中盤以降は事件の謎よりも警察組織の深い闇を追求していくような物語構成がとても面白く、物語の中に前のめりで入り込んで没頭してしまった。どこまで読んでも理不尽さばかりを感じるが、ラストシーンに僅かばかりの希望を感じた。良作である。

個人的おすすめ度 4.0