蟻の菜園 -アントガーデン-(柚月 裕子)

結婚詐欺の容疑で逮捕された女の周辺で、複数の男が不審死していた。フリーライターの今林由美は、報道されている事件に違和感を感じ、容疑者の本当の姿に迫ろうとする。そこには、三十年前の北陸で、少女が置かれた過酷な環境があった。

由美は言う。十の事実があっても新聞には一しか載らない。しかし、残りの九にこそ真実がある、と。これは私たちが日常で見ているあらゆるニュースに言えることだろう。

物語が進むにつれ、少女の辛い過去が明らかになっていくが、もっと早く誰かが救いの手を差し伸べられなかったのだろうかと思う一方、救ったつもりであっても見えていたのは氷山の一角でしかなかったということだったのかもしれない。あるいは、人間というものにとって、他人は所詮他人でしかないのだろうか。

社会の正義とはどこにあるのだろう。誰もが幸せになる権利があるが、誰も人を不幸に陥れる権利はないというのは綺麗ごとでしかないのだろうか。ラストに僅かな希望が語られるが、やるせない気持ちでいっぱいになった。

個人的おすすめ度 3.5