臨床心理(柚月 裕子)

障害者施設で手首をカットして病院に運ばれた少女は、本当に自殺だったのか。同じ施設に入所している青年は、少女の死を自殺ではないと訴える。臨床心理士の主人公が、青年の担当となってこの事件を調べていくと、障害者をめぐる社会の問題が明らかになってくる。

青年は、人が発した言葉に色が見えるという。それが悲しみの色なのか、喜びの色なのか、あるいは本当なのか、嘘なのか。共感覚と呼ばれるこの特異な能力は稀なケースとして現実に確認されているが、実際にその人間と対面したとき、それが本当なのか判断するのは難しい。

この物語の大きなテーマは障害者の問題であり、その中に共感覚のように他人に分かりえない感覚を持っている相手とどう理解しあうかということがある。本作品の価値は、単なるエンターテインメントとしての面白さだけでなく、そうした社会の問題を扱ったところにもあるだろう。

「このミステリーがすごい!」大賞も納得の、素直に楽しみながらも考えさせられる作品であった。

個人的おすすめ度 3.5