猫鳴り(沼田 まほかる)

中年夫婦のもとにやってきた仔猫。流産で子を亡くしたばかりの夫婦は猫を捨てに行く前半、その描写は生々しく残酷にも思える。しかし、命を安易に扱わないという観点では、無責任に餌付けしたりすることよりも現実的な選択に思える。捨てに行っても帰ってきてしまう猫、そしてある少女の来訪により、夫婦は猫を飼うことにする。

第一章は夫婦と猫が暮らし始めるところを描き、第二章では登場人物が変わって父子家庭の少年と猫、そして少女の関係性を描いていく。そして第三章では猫の最期が描かれるのだが、それぞれにおいて人間の心理描写が見事だ。加えて猫を決して擬人化せず、人間から見たリアルな猫の様子も素晴らしい。以前うちにいた猫や今一緒に暮らしている猫のことと重ねて頷くしかなかった。

全ての命あるものは等しく死を迎えると頭では理解できても、心がそれを受け入れるには時間が必要なときもある。いつもあったはずの声が聞こえなくなるとき、そして猫のゴロゴロという猫鳴りが聞こえなくなるとき、そこにはブラックホールのような心の虚無が広がっているかもしれない。しかし、私たちはそれを自然なこととして生きていくしかないのだろう。

個人的おすすめ度 3.5