猫を抱いて象と泳ぐ(小川 洋子)

なんという美しさだろうか。8×8の升の上、あるいは下には、逃れようのない耽美な切なさが、無限の宇宙のように広がっていた。

リトル・アヒョーキンと呼ばれるチェスプレイヤーは、ただ強いだけで伝説となったわけではなかった。彼の美学は、ただ勝ちを求めるのではなく、戦う相手とともに美しい絵を描き、心地よい音を奏で、互いの人生において最高のひと時を共有することだったのではないかと思う。その瞬間ために、彼は歪ともいえる環境を受け入れたのだろう。

物語はまったく先が読めない展開で、彼が暗闇の中で未来を切り開いていくのを一緒に体験しているように感じた。だからこそ、その苦しみや哀しみ、そして喜びも共に味わうことができた。感動でページを捲る手が震えた言っても大げさではないほど引き込まれた。

リトル・アヒョーキン、彼の人生の物語は、きっと私自身の人生の中で何度も思い出すに違ない。素晴らしい一冊に出会えたことに感謝したい。

個人的おすすめ度 5.0