狐笛のかなた(上橋 菜穂子)

人にはない力を母から受け継いだ小夜は、あるとき犬に追われる子狐を助けた。その狐はこの世と神の世の境に棲む野火という名の霊狐であった。また、小夜は、森陰屋敷という大きな屋敷から出ることを許されない少年と出会い、心を通わせるようになる。物語は、小夜、野火、そしてその少年を中心に展開していく。

舞台は恨みあう二つの国。その一方の国で、王の後継者であった王子が病死すると、森陰屋敷に閉じ込められていた少年を巡って深刻な事態が訪れる。小夜は亡き母の出生の知り、この混乱に自ら足を踏み入れるようになる。そして、かつて小夜に救われた野火もまた、容易ではない立場にありながら小夜を助けようとする。

野間児童文芸賞を受賞した本作は、大人が読んでも心に響くファンタジー作品で、彼らの未来が気になって頁を捲る手が止まらない。架空の世界のことであるにも拘わらず、情景や彼らの姿が行間から鮮やかに浮かび上がってくる。気が付けば自分が別の世界の中に舞い込んでいる。これこそファンタジーを読む醍醐味である。

そして、このラストシーン。切ないとかそんな一言では表現しきれない、心が締め付けられるような思い。きっとこの作品を読んだ方ならわかってくれるだろうと思う。また読み返したくなる作品である。

個人的おすすめ度 3.5