犯罪者(太田 愛)


白昼に発生した通り魔事件で4人が死亡、1人が負傷して行方不明となった事件。被害者であり唯一生き残った修二は、再び命を狙われることになるが、この通り魔事件の裏には巨大な犯罪があった。

はみ出し者の刑事・相馬、友人の鑓水は、修二と出会い、この犯罪を調べ始めるが、事件はさらなる被害者を生み出し、さらにもっとたくさんの悲しみをまき散らしていた。

とにかく先が気になって上下巻の重厚な物語があっという間だった。描かれているのは理不尽な社会で生きる「人々」ではなく、一人一人の人間である。先の三人もさることながら、登場人物の捉え方や描写が素晴らしい。少ししか出てこない人物であっても印象に残るほど、しっかりとした人物として描かれている。悪役となっている登場人物にしても、その背景が描かれることによって、すべてが偶然ではなく必然によって人と人が繋がっていく。

上巻を読み終えた時点でもう謎は解けている気がしていたが、まったくそうではなかった。ラストは歯がゆい思いもたくさんあったが、安直な結末ではなく納得せざるを得なかった。読み終えてしまうのが本当に惜しい作品である。

続編の「幻夏」「天上の葦」とあわせてシリーズ三部作をすべて読んだあとは、さらに深い感慨が残るのだろう。まだ読んでいない「天上の葦」も急いで読もう。

個人的おすすめ度 5.0