犬がいた季節(伊吹 有喜)

三重県四日市の高校に迷い込んだ一匹の犬は、昭和から平成へと過ぎていく時代の中で生徒たちと共に生きた。青春のひと時、かけがえのない出会いがあり、将来を左右する決断があり、切ない別れがあり、その後の人生を支える大きな喜びがある。その傍には、彼らの思いを理解し、寄り添ってくれる犬がいた。

昭和の終わりころから平成の前半を中心に描かれた物語は、ちょうど私自身の若い頃とも重り、懐かしい話題がたくさんあった。今よりもっとバカだった頃を思い出し、ちょっとセンチな気持ちになりながら、登場人物たちと共に当時の雰囲気を楽しんだ。

やがて大人になった彼らは、後輩たちへ温かい視線を送る。それは本を読んでいる私自身の視線でもある。思うように理解してくれない大人たちへの不満やもどかしさが手に取るように伝わってくる。いずれ歳をとればわかるんだと、わかった風な素振りを見せる大人たちの滑稽さは、今になれば確かにわかる。その反面、青春の一瞬でしか得られない真っすぐさは失われていくのだろう。

それでも、心の中にキラキラと輝く思い出は、いつになっても残っているんだなと感じさせてくれた作品。本を閉じてしばらくすると、また開きたくなる一冊に違いない。

個人的おすすめ度 4.0