海をあげる(上間 陽子)

沖縄で暮らしていると聞いたら、私は何も考えず、それは素敵なところに住んでいるんですねと言うだろう。その笑顔の裏側に、深い悲しみや、やり場のない怒り、あるいは諦めがあることに気づかないまま。

本作は、著者が沖縄で暮らしていて感じていること、そして話を聞いた人々のことを、決して飾らない言葉で伝えてくれるドキュメント作品だ。しかし、誰かに気づいて欲しいという単純なことではないだろうから、「わかる」という言葉を安易に言うことはできない。ただ、何かを感じたら、少しだけ行動が変わるかもしれない。

他人の痛みなど、本当は他人事だ。さらに言えば、娯楽ですらあるように感じることがある。人の悲しみをご楽にしているメディアという商売もあるが、メディアだけの責任とは言えない。求める人がいるからである。そして本質を見ることなく、やがて忘れ去っていく。

諦め、受け入れ、そうして生きていかなくてはならなかったことがある。今もそうして生きている。だから、これからもそうして生きていかなくてはいけないのだろうか。誰にも気づかれないままに。

最後に綴られる「海をあげる」という言葉。それは希望だろうか。それとも諦めだろうか。一人でも多くの人が、他人の痛みを想像しようと努力をするなら、そこには僅かな光が見えるだろう。

個人的おすすめ度 3.5